このお話では天国は黒撰高校の1年という設定です。



LOST LOVE


「ちわーっす!」

「よー猿野。」


ここは黒撰高校野球部。
元プロ野球選手、村中紀洋に指導される名門チームだった。


そこの一員…1年生の猿野天国は今日も元気に部室に姿を現した。


「おーっす、さるのー。」

「やあ猿野くん、今日も非日常的かつ常軌を逸して元気なようだね。至極結構なことだ。」

「…先輩の言ってることはよくわかんないけど…、今日もがんばろうね…猿野。」


天国の姿を目にした部員達はいっせいに天国に笑顔を向けた。



「…。」

「?どーしたんだ、さるの?」

猿野は皆との挨拶を終えた後、ふと何かを探すように視線を動かす。

そんな天国を不思議に思った同1年生の村中由太郎は、天国にどうしたのか聞くが。
その後ろから別の声が聞こえて来た。


「よ、猿野。」
「あ、波羅田センパイ。ちわっす!」


後ろにいたのは3年のレフト、波羅田だった。
やや毛深いが、よくよく見ると端整な顔立ちで。
練習は真面目にこなし面倒見もよい先輩だった。


そして…この場でたった一人、ある情報を持っていた。


波羅田はかすかに微笑むと、天国に告げた。


「あいつなら今日は委員会でちっとばかし遅くなるって言ってたぜ?」

波羅田の言葉に天国は大きく反応した。

「!って、センパイ、オレ別にカイさんのことは…。」


その様子に波羅田は笑いを堪えながら言った。

「おいおい猿野、俺ぁ別にカイのこととは言ってねえぞ?」


そこで天国はようやく自分が墓穴を掘ったことに気づいた。


「〜〜〜〜〜////!!!」


そして周囲は。


呆然とした。


既に我らがアイドルが人のものになっていたのを知ってしまったからだ。


その中で。
一人由太郎は拳を握り締めた。


#######

「すまぬ、遅くな…っ?」

数十分後、波羅田の言葉どおり遅れてやってきた3年キャプテン、村中魁は部員達の厳しい目線に驚いた。


「何だ?何かあったのか、皆のもの。」

「…にいちゃん…。後で話があるんだけど、いい?」


常ならぬ視線で睨む弟が最初に言葉をもらした。


「…?分かったが…。」


とりあえずそれに答えるしか、魁には術が無かった。



そんな中、天国の姿はこの場にはなかった。



#####


放課後の練習をあまり和やかとはいえない空気の中で終えると。
由太郎は魁を人気のない体育館裏へと誘った。


「…それで?話とは?」

いつも天真爛漫な弟は、聞いたことのない声を出して言った。

「……にいちゃんさ、さるのと付き合ってたってホントか?」

「!」

その言葉に魁は驚きながらも、納得した。

知られたのか、と。


「…事実だ。一月ほど前からな。」

「……何で内緒にしてたんだ?」

「猿野の望みだからだ。まだ誰にも言わないで欲しい、とな。」


「……。」

由太郎はそこまで聞くと、うつむいたままで口を閉ざした。



魁はひとつ息をつくと。
弟に言った。


「お前にも黙っていたのは悪いと思っている…。
 すまなかったな。」

「そうじゃない!それもあるけど…!!」


由太郎は兄の言葉にはじかれたように顔を上げる。
その顔には…魁も初めて見る表情が浮かんでいた。


「オレだって…さるのの事…。」

辛い、痛そうな表情。


魁はその顔を見てやっと由太郎の気持ちを理解できた。


「…そうか。」


「…うん。」


魁には謝ることなどできなかった。

それをすることは自分も、由太郎も、天国も侮辱することになると感じたからだ。



「…ごめん、にいちゃんに怒ることじゃねえのはわかってんだけど…。
 でも…。」


魁はその様子を見て、由太郎の頭に軽く手を置いた。


「かまわぬ。拙者とて…猿野が他の者を想っていれば同じように感じるだろう。
 お前の気持ちがまがい物ではない証拠だ。」


「……。」

こくり、と由太郎は頷いた。



#######


『オレは猿野天国。てんごくって書いて「あまくに」だ、よろしくな!』

桜の花びらの舞う中、初めて会った猿野。

明るくて、楽しくて、面白くって。


強くて優しくて。


弱くて。


大好きになってた。


涙が止まらない。


「…よ、ユタ。」


天国と初めて会った桜の木の下で人知れず泣いていた由太郎。
彼に声をかけたのは小饂飩と、緋慈華汰、そして沖の3人だった。


「…辛いね。」

「心の傷は時間とともに美しく儚い思い出へと昇華すべきものだよ。」

「だから分かりにくいんだよお前の慰めは!」


「…慰めに来てくれたんだな。皆。」


「あ。」
由太郎の言葉に自分たちのしていることが余計ではなかったかと、小饂飩と緋慈華汰は、固まる。

だが、沖は言葉を続けた。

「…慰めにきたって言うか、慰めあいに。

 僕も好きだったよ、猿野のこと。

 …今も好きだし。」


「…沖。」

バッテリーを組む同学年の親友に、由太郎はふと泣き笑いのかおを見せる。


「…ありがとな…。」


ふと顔を上げると。


魁とよりそう天国が見えた気がした。



いつかそれを祝福できるように。



今はここで君を見つめよう。



明日も君と野球をして仲間であれるように。



                                    end

いつもながら大変遅くなり申し訳ありませんでした!
しかもあまり黒撰高校にいるという設定が生かせず、エセシリアスですし…本当になんといっていいのか。

最初はギャグになるはずだったのに、なぜかユタ君の失恋話に。


ちなみに天国が練習でいなかったのは恥ずかしくてサボったから。
あとで魁さんに注意されて仲直りしてます。


加藤舞子さま、お待たせして本当にすみませんでした!
そして素敵なリクエストありがとうございました!


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